キミ色に





「起きてってばー、遼」

膝の上に乗った少し色素の薄い髪を撫でながら言ったけれど、遼は私の言葉に反応を返す事は無く、ただ瞼を下したままだった
なぜか私がフィオナ先生に注意されて以来、こうやって毎朝遼を迎えに行くのが私の習慣になりつつあった。ただその成果はほとんど無くて、一体どうしたものかと思ってしまう

「起きて。もう学校行かないと間に合わなくなっちゃう」
「・・行かなくたって良いだろ」
「良くない。またフィオナ先生に怒られちゃうよ」
「面倒臭い。・・大体学校とか何時に始まるんだ」
「信じられない!まだ覚えてなかったの?」

やっと瞼を持ち上げた遼とこんな不毛な会話を繰り返したところで、このままじゃ学校に行く事なんて叶わない。こうなったら遼を見捨てて私だけでも!と思っても、遼の頭が膝に乗っている時点で立ち上がる事なんて出来やしない。まぁ強引に足をずらせばどうにかなるかもしれないけれど・・その場合遼の頭が地面に落下してしまうし、そしてその事に遼が怒るのは目に見えているから、そんな無謀な事は出来ない
それになんて言うか・・・こうやってしている時の遼の表情はどこか柔らかくて、なんだか無理に行動を起こす事が出来なくなってしまう。だからと言ってここで負けてしまってはいけない。いろんな意味で。どうにか自分に言い聞かせて、説得を再開する

「遅刻しちゃうよ、遼」
「構わねぇよ」
「私はまだしも遼はダメでしょ。また留年しちゃったらどうするの?一緒に卒業出来ないじゃない」
「・・・・・どーにかなるだろ」
「ならない。まずは学校に行かないと、ね?」
「嫌だ」

何故こうも頑固なのか
家まで迎えに行って遼を外に引っ張り出したまでは良かった。けれど学校へ向かう途中なぜか河原へと道を逸れ、強引に私をそこに座らせると膝の上に頭を乗せた。あれから既に20分は経っているはず
本格的に遅刻の危機だし、正直そろそろ足が疲れた。頭って結構重いんだよ。知ってる?遼

「遼のばーか」
「ああ?」
「もう、早く行こうよ。みんな待ってるよ」
「みんなって誰だ」
「みんなはみんなだよ。拓磨や真弘先輩とか」
「余計行きたくねぇ」
「なんでよー」
「俺があいつらと仲良くできるとでも思ってるのか?」
「仲良くしてよ。せっかくなんだから」
「無理だな。特に鬼崎は」

どれだけ馬が合わないのか。拓磨の名前を出した時の遼の顔の酷さと言ったら
これはもう諦めるべきなのかもしれない。溜め息をついてフィオナ先生やみんなへの言い訳を考えながら遼の髪の毛を撫でていたら、ふと手首を掴まれた。何かと思って目線を下に降ろすと、遼のどこか挑戦的な瞳とかち合った

「言っただろ。たまには俺に独占させろって」

確かに言われた。そう言えばあの時もこうやって膝枕していた気がする
私を見上げる遼の表情はとても自信に満ち溢れていて、なんだか妙に恥ずかしい

「い・・・・われたけど・・でももう十分独占したと思うケド」
「まだだ。それに、学校に行ったら邪魔が多い。思う存分お前を味わえない」
「あ、当り前でしょっ!?学校で変な事したら許さないからね!」
「変な事、な。具体的にどういう事だ?」
「ベタベタしたり抱きついたり・・・と、とにかくそういう事っ!絶対駄目だからね!」
「嫌だ」
「遼!!」
「あれー、お前も遅刻かぁ、珠紀・・・っておおおおおおお!?何してんだお前らぁっ!?」
「ま、真弘先輩っ!?なんでここに・・」
「ち、うっせーな」
「あぁ?テメェ狗谷。先輩に向かって口のきき方がなってねーぞぉおお!」
「ちょ、待って真弘先輩!私を巻き込まないでっ!!」

真弘先輩の起こした強風に煽られながら、こんな事になるならどんな手段を使ってでも早く学校に行くべきだった!と後悔しても後の祭りで
その日のうちに、私は「学校にちゃんと来たらお弁当を作ってあげる」という約束を遼に取り付ける事に成功した