あなたの愛で強くなる





静かに寝息をたてる双葉の髪をそっと撫でる。酷く脆いものを触る様にそっと差し出した僕の指を、双葉の少し細い髪の毛は静かにすり抜けた

決まっているじゃない。あなたが好きだからだよ

まっすぐと、けれど優しさの滲む瞳で双葉はそう言った
僕の傍にいたいから、守られるだけは嫌だから。己の体を傷つけて武骸を入れた
なんて危険な事をしたんだ。女性が肌に傷をつけると言うだけでも大変な事なのに、彼女は文字通り命を賭けて武骸を入れた。他の誰でもない、僕の為に。何故そこまで、と言う疑問が浮かんだ。彼女は主で、僕の役目は彼女を守る事。双葉が戦う必要などなかったのに。疑問と彼女を守れなかった自分への情けなさに襲われた。そんな僕に、彼女はそう言った

黎明の傍に居たいの

月明かりのしたそう微笑んだ彼女は、思わず見惚れてしまうほど美しかった。外見の美しさだけではない、内面の強さ美しさがそこにはあったように見えた
双葉を愛おしいと思う様になったのはいつからだったか。彼女が初めてフライコールの制服に袖を通し、そして僕を庇って傷ついたあの時には既に、僕は双葉を主としてではなくひとりの女性として守りたいと思っていたのかもしれない。・・いや、もしかしたらずっと前から

「ん・・・」

薄く開かれた唇から小さな声が漏れる。起こしてしまったかと思って慌てて髪に触れていた手をひっこめたが、杞憂だったようだ
あの後双葉を部屋まで送って行った。灯りのついていない自室に数日振りに足を踏み入れた彼女は、けれどすぐにその足を止めて振り返り、僕の方を見た

「あの・・、黎明。今からちょっといい?」

おずおずと掛けられたその質問に頷くと、双葉はほっとした表情を浮かべた後僕に部屋に入る様に促した。そしてベッドに腰掛けると、ドアの前に立ったままだった僕にはにかんだ笑みを見せる

「少し、話さない?黎明に聞いて欲しい事が沢山あるの。聞きたい事も。それに・・・・」
「・・それに?」
「なんだか、眠れそうになくて」

困ったように笑う彼女の為にホットミルクを作ってから部屋に戻ると、双葉はパジャマに着替えた状態で窓の外をぼんやりと見つめていた

「双葉・・?」
「・・あ、黎明」
「ホットミルクを作りました。安眠効果がありますよ」
「わぁ、ありがとう」

何故か未だに灯りのついていない部屋の中には月明かりが差しこんでいる。その光を浴びながら僕の方へと小走りでやってくる双葉がなんだか儚く見えて、逃すまいとじっと見つめてしまう

「黎明?」

そんな僕を不思議に思ったのか、両手でマグカップを握る双葉が首をかしげた。慌ててなんでもありません、と言うと、双葉はすぐに納得してくれた

「外を、見ていたのですか?」
「ん?うん。そんなに長い時間離れていた訳じゃないんだけど、なんだか懐かしく感じちゃって」
「・・そうですか」

この屋敷を出た後、彼女が秀真凛の元へ行った事は知っている。だがそこで武骸を入れ、そしてそれを使いこなせるようになるまで訓練していたとは思いもしなかった
それから、双葉は色々な事を話した。秀真凛と渉という少年の不思議な師弟関係や、武骸を入れたマスターの事から、秀真機関に居る黒服達がいつ寝ているのかすらよく分からないほど謎の男たちだと言う事まで。本当に、色々な事を
しかしその沢山の言葉の中に僕を責めるものは一切無く、その事は僕を少しだけ安心させ、そして情けなくもさせた。けれどそれは不思議と不快ではなかった

「双葉、そろそろ休んではどうですか」
「でも・・・」
「僕はもう暫くここに居ます」
「・・ん」

のろのろとベッドに入った双葉は、しかしすぐに眠りに落ちた。当然だろう。この短時間で武骸を使えるようになるまでの訓練をしたのだから。体が疲れていない筈がない
この細い身体で、華奢な指で、どれほどの無理をしたのだろう
そう遠くないうちに、NEDEとの決着をつける時がくる。その時は当然、双葉も共に行くだろう。その時僕は彼女を守れるだろうか。主としてではなく、ただひとりの愛おしい女性として、彼女を

「・・愚問だな」

守る。他の何を犠牲にしても、双葉を守る。そして全員で生きて、この家に帰ってくる。その為に、双葉は強くなったのだ。ならば僕が強くならなくてどうする。肉体的なものだけではなく、内面から

「ゆっくり休んでください、双葉」

双葉の前髪に軽く唇を触れさせてから、部屋を出る。廊下の窓から覗く、満月には少し足りない月を見上げる。覚悟は、決まった

title by rewrite