ハチミツ色の世界





芝生の上に座ってお弁当を広げて、お箸を手にして固まる私を黎明はじっと見つめている
前にも、と言うよりつい数日前にもこんな事が有ったような・・・と思いつつも、その時言った言葉をそのままもう一度目の前の姿勢正しく座っている彼に言っても良いのかなと少し考えてしまう
黎明は酷く真面目だ。それは初めて会った時から分かっていた事だけど、でも最近は、その真面目さの中に私への気遣いや優しさが増えてきた気がする。私に対しての冷たさと言うか事務的な態度が無くなってきたし、最近では私の意見もちゃんと聞いてくれている。お陰で最初の頃の様に黎明たちに対して不信感を抱いたり、一緒に居る時に妙に居心地悪く思ったりはしなくなった
けれどだからと言って、この近距離で見つめられたまま食事をするって言うのはやっぱり落ち着かない
司狼はクラスメイトの女の子たちとカフェテリアへ行ってしまった。こう言う時、双子の兄である司狼なら上手い言葉で黎明に伝える事が出来るんだろうけれど、生憎今の私に浮かんだのはどれもストレートなものばかりだった

「・・どうかしましたか、双葉?箸が進んでいない様ですが・・・気分でも悪いのですか?」
「え、あ、違うの!ただちょっと・・・」
「食事が口に合わないのでしたら遠慮なく言ってください。味醂が少なかっただとか食材を大きく切りすぎただとか、或いは、」
「ち、違うの黎明!そうじゃなくてね、えっと・・・」

心配そうに私の顔を覗いたと思えば真顔でそんな事を言い出した黎明につい慌ててしまう。黎明の料理はプロ級だけど、彼自身は今のレベルに満足している訳ではないらしく、日々努力を続けている。どこまでも真面目でストイックな人
納得がいっていない顔をしている黎明を見て、小さくため息を漏らす。黎明は婉曲的な表現が好きじゃないし、私も司狼の様に口が達者じゃない。やっぱり、ストレートに言ってしまうしかない

「あのね、黎明。前も言ったんだけど・・・そんなにじっと見られてたら、やっぱり食べにくいよ?」

少しだけ控え目にそう言うと、一瞬の間の後黎明の頬がサァッと赤くなった。そして慌てたように顔を逸らすと、彼は小さな声で言う

「す、すいません、双葉。以前双葉がそうおっしゃっていたのにまた・・・」
「う、ううん!そこまで気にしなくて良いんだけど・・」
「しかし、双葉に不快な思いをさせてしまいました。申し訳ありません」
「だ、だからねっ、そんな深刻にならないでっ!」

深々と頭を下げようとする黎明をなんとか押しとどめて、自分を落ち着かせるためにもお茶を軽く流し込む。なんだか無駄にのどが渇いてしまった

「あのね、黎明。黎明の料理はどれもおいしいし、もし何か問題があったらその時はちゃんと言うから。だから毎回そんなに緊張しなくて良いよ」

未だに申し訳なさそうにしている黎明にそう言うと、彼はその表情を真面目なものに変えて、私の目をじっと見つめて言った

「それは分かっています、双葉。しかし僕たちは双葉に辛い思いばかりさせてしまっています。ですからせめて、僕に出来る料理だけでは、不快な思いをさせたくはないのです。双葉が僕の料理を口にして美味しいと感じていただけるだけで、僕は幸せなんです」

そう言って最後に小さく微笑んだ黎明に今度は私の頬が熱くなる番だった。黎明は時々こうやって真っ直ぐな言葉で私を動揺させる。その事にはまだ、慣れる事が出来ない

「しかし・・・そうですね。やはり人に見られて食事をするというのは落ち着かないですね。これからはこのような事がない様に善処します、双葉」
「う、うん・・・」

どこまでも真面目な黎明の顔を見る事無く頷いて、動揺する自分を誤魔化す様に煮物を口の中に放り込んだ。静かに染み出る出汁の味も、黎明の優しい微笑みも、暫くは頭から消えそうになかった