午前0時のラブレター
パタンとケータイを閉じると、かなでは足取りも軽く部屋を後にした
色々とあったけれど、あの大会の後かなでは冥加とそれなりの関係を築けていると思っている。勿論過去にあった事と彼の性格上普通の関係性では無いと思っているけれど、それでも少しずつ、自分たちの関係は良い方向に向かっていると
冥加の携帯の番号とアドレスを受け取ったかなでは少しばかり悩んだ。本当はいっぱい連絡を取りたい。けれど彼がこういうものを苦手としていると言うのは何となく分かっていた。それに忙しい彼の事だ。事前の連絡なしに電話をしたりして、仕事の邪魔をしてしまうのは嫌だった。そんな事を色々考えた末、今の形に落ち着いた
一日一通、少し長めのメールを送る。そんな習慣
何だかんだと理由をつけてほぼ毎日会えていた夏休みとは違い、学校が始まった今は街中でばったり、なんて事も減ってしまった。かなでにとってそれは酷く不服で、寂しい事だった。本当は毎日会って話を聞いてほしかった。でもそれが無理だと言う事も理解している。だからせめて、メールでそれを叶えたい
その日あった事思った事をそのまま打ち込む。けれどちゃんと文章が長くなりすぎないように気をつけている
大抵その内容は他愛も無いものばかりだ。でもその他愛も無い普通の事をこそ、冥加に聞いてほしい。そう言う事が自分たちには大切だと、かなでは思っている
初めのうちは冥加も戸惑っていたのか、かなでが書いた文章全てへの反応を返したり、あるいは一部のみに反応したり、形が定まっていなかった。かなでにとってはその返事の内容より、ちゃんと返信をしてくれたと言う事実が何よりも嬉しかった。律儀で面倒見の良い冥加の、短くて簡潔な言葉がかなでは大好きだった
最初、かなでがメールを送信するのは寮に帰り食事を摂った少し後だった。けれどそのタイミングに送ってしまうと、いつ返事が来るかとソワソワしてしまって宿題や譜読みに手がつかなくなってしまった。なのでかなでは時間を少しずらし、お風呂に入る前に送る事に決めた。そうすれば、部屋に戻ってくる頃には冥加からの返事が届いているから。そしてそのメールを見て、幸せな気持ちのまま眠りに着けるから
メールのやり取りが始まってから少し経つと、冥加に大体のパターンが出来上がって来ている事にかなでは気付いた。かなでのメールには話題が3つから5つ入っている。そして冥加はその一番最後の話題への言葉を返すようになっていた
冥加がかなでのメールへの返事を送信するのにはある程度の時間がかかる。まさかタイピングに手間取っているとも思えないから、どう返事を書くかを悩んでくれているんだ、とかなでは思っている。そして悩んだ末、冥加は一番最後の話題への反応を返してくれている、と
それが分かってからは、かなでは一番反応が欲しい話題を最後に持ってくるように心がけた。そうすれば、冥加はその答えを返してくれる。そうやってちゃんとコミュニケーションを取れているという実感が堪らなく嬉しい
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お風呂上り、ニアと少しお喋りをしてから部屋に戻ったかなではケータイを確認すると、一気に頬を緩ませ「えへへ」と笑みをこぼした
今日の放課後、枝織と会い近いうちに一緒にお茶をしようと言う事になった。そしてそこに、冥加も呼ぼうと。その事への返事が、これ。他の人の言葉だったら否定と取れるかもしれないけれど、冥加の場合は違う事をかなではすでに知っている。彼の分かりにくくてぶっきら棒な優しさが嬉しくて、どうしようもない
せっかくお茶をするんだから、なにか手の込んだお菓子を持って行こうと思い、その予行練習も兼ねての菓子作りに勤しむかなでからこの約束を聞いた響也が尋常ではない勢いで驚くのは次の日の事