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君から遠い





01:今すぐ声が聞きたい
「まーくん。一緒に帰ろ」
いつも、優しく手を差し伸ばしてそう言ってくれた
あの声も、温もりも、どちらもここには無い
有るのは冷たい床と、厳しい大人達
寂しくて、泣きたくなる。帰りたいとも思う
でも帰っても、自分には戻りたいと思える家は無い。だけど優しく迎えに来てくれる人は、たったひとりだけどいた
「まーくん」
いつも夢に見る。夢の中で、彼女はいつも笑ってこちらに手を差し出してくれる
夢の中だけじゃなくて、今、声が聞きたい。優しく自分の名を呼んでくれる声を。あの声を聞くことさえできれば、きっと頑張ろうと思える
あの優しい声を、もう一度








02:離れてみて気がついた
どうやら自分は、自分で思っていた以上に彼女に甘えていたらしい
子供扱いされたくない。同じところに立っていたい。彼女を守りたい
そう思っていたのに、辛い事があると思い出すのは彼女の存在だ
その笑顔が、声が。自分の心を慰める
例え触れる事ができなくても、記憶の中の彼女にさえ甘えている自分は、酷くちっぽけで弱い人間なんだと思い知る








03:瞳を閉じて思い出すのは
あれからもう何年も経ったのに、未だに夢に見る事がある
夢の中で、あいつはなんて事の無い日常を生きている。俺があの時まで見ていた日常そのままを、過ごしている
平和で、のんきで、明るい。そんな日々を過ごして、笑っている
泉に引きずり込まれたあいつがどうなったのか、最早知る術は無い
もし俺と同じ様な状況になっていたとしたら、とても無事とは思えない
だからだろうか。夢の中にいるあいつがいつも笑っているのは
せめて夢の中でだけでも無事でいてほしいと言う、愚かな願い








04:呟いたのはあなたの名前
もう吹っ切れた、吹っ切ったと思っていた
10年以上の時が流れた。俺は軒猿として、この時代で生きている
もうあいつがどうなったかとかそんな事は、吹っ切ったと。あいつに甘える自分はいなくなったと
だがどうだ
怪我を負い、敵に囲まれたこの状況で零れた言葉は仲間への合図でもなければ何かの策でもない
この場では何の役にも立たない、ただの名前だ
整理をつけたと思ってはいても未だに心の奥底にはあいつがいる
もうこの感情は、どうしようもない
ただ今は唇を噛み締め、この状況をどう切り抜けるか。それだけを考えなければならない
あいつの事には蓋をし、深く深く閉まっておく。何度この処理をしたのかさえ、もう分からない








05:逢いに行くよ 今度は私から
その人は私を見て、一瞬酷く驚いた様な顔をした
けれどすぐに目を逸らして、それからはずっとそっけなかった
そりゃあ私はここの人たちにとっては異質だし、不審だし。そんな態度とられても当然とは思うんだけど
ただ彼には少しだけ違和感を覚えた。何がどうおかしいのか、うまく説明出来ない違和感
ただ何となく、とにかく何となく、私に近いものを感じた気がした
その感覚が何だったのかを私が知るのは、まだ先の事










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