神様どうか、開かれる前に終焉を迎えた物語に終止符を打ってほしいのです
自慢ではないが、僕は今まで女友達と言う存在が出来た事は一度も無かった
僕にとっての女の子は基本的に二種類しかいない。僕を好きになって、その好意をそのままに接してくる子と、そんな環境にいる僕を警戒し遠巻きにただ見るだけの子。これが僕の生きる世界で、僕の日常だった
そんな日常に新たな色が加わった
可愛らしいバイトの後輩は少し頬を朱に染めながら僕に言った。恋愛相談に乗ってほしいんです、と
その子は元から少し変わった存在だった
僕のこの目が効かず、それだけでも稀有な存在なのに、僕に特別な好意を抱く事もなければ、遠くから観察するように見つめるという事もしなかった
そんな僕の世界にとって異質な子は、更に突飛な相談を持ちかけてきた
僕に恋愛相談をしようとしてきた子なんて今までひとりだっていなかった。だからこそ新鮮だったし、正直面白いと思った。他人の色恋の話を聞く機会なんて滅多に無いから。好奇心から面白半分で了承したのは事実だった
けれど彼女の真剣で、必死な様子を見て、すぐにその浮ついた感情は無くなった
本当に、彼女は一生懸命だった
どこまでも一途に彼を想っていた
なかなかにハードルの高い相手を想っている上、彼女のアプローチ方法が少しずれている事は確かだったけれど、それでも彼女は純真で真っ直ぐだった。彼に妬いてしまう程
そう。僕は妬いていたのだ
彼女にこれほどまでに想われる彼に、心から
誰か他の男に嫉妬するなんて、生まれて初めての事だった
けれど僕が彼女に何かを伝える前に、事態は大きく動いてしまった
8月の頭、彼女が体調不良を理由にバイトを休んだ
すぐに戻るだろうと思っていたけれどそうはならず、長期間シフトから外れた
どうしているか気になってメールを送ってみたが返事は来なかった
この時点で、僕は彼女と連絡する術を失ったも同然だった
まさか自宅に行く事も出来ず、ただどうしようもなく日々が過ぎて行った
そして8月も終わりかけた頃、トーマ君から連絡が来て、全てを知らされた
彼女が置かれていた状況。受けていた被害。それが誰の手によるものなのか
ショックだったし、情けなかった
僕と親しくするという事がどんな影響を生むか分かっていた筈なのに、回避する事が出来なかった
そんな事を仕出かした周りの女の子たちにも酷く幻滅した。我儘な所が有っても、それはあくまで可愛いと思える範囲の事だと思っていたのに。僕を独占したいからとこんな事までするなんて
もう何もかもを信じたくなくなった
「イッキさん!」
暫くして、色々な事のほとぼりが冷めた彼女はバイトに復帰した
最初の内は心配していたけれど、彼女はそれまで以上に明るくてしっかりと仕事をこなした。そして前よりも随分と可愛くなった
キラキラと満ち足りた笑顔を浮かべ僕に声をかける
「おはよう、マイ」
「おはようございます」
「髪の毛切ったんだね。似合ってるよ」
「え、あっ……ありがとうございます」
頬を染めて照れながらそう言う彼女の耳元で、ミルクティ色がふわりと揺れる
女の子らしく恥じらう彼女を可愛いと思う。もっと沢山の表情を見たいし、もっと沢山の時間を一緒に過ごしたい
けれどその権利は今の僕の手には無い
仕事が終わると、彼女は少し急ぎながら帰り支度を始めた。慌てたのか鞄からポーチが転がり落ちた
それを拾ってあげると、彼女は微笑みながら礼を言ってくれる。けれどこの柔らかい笑みも、暖かさも、全て僕のものにはできない
付き合っている相手がいると知っているのに横槍を入れる事は僕が最も嫌っていた事だ。そう言う事をする女の子たちをずっと煩わしいとさえ思っていた
だからこそ僕はそんな事は出来ない
彼に対しての感情を隠す事無く表に出す彼女のそばで、ただ見つめる事しか今の僕には出来ない
気付いた時にはもう遅く、諦める事すら出来なくなっていた恋
初めての経験、初めての感情の扱い方すら分からぬまま時は過ぎて。煌びやかなネオンに彩られた街を見て思う。彼女はクリスマスや年末年始を彼と過ごすんだろうな、と
息が苦しくなるほど締め付けられる胸をどうにか抑え込み、強引に無視をして、何も無かったように歩き続ける
このまま消えてしまえれば楽なんだろうなと馬鹿な事を考えて、吐き出すように笑う
出来るはずもない事を夢想する程弱っている自分を心底哀れに思う。けれど他の女の子の慰めはいらない。欲しくない。今僕が欲しいのは違う暖かさだ。決して届くことのないぬくもり
漏れた白い息は雑踏の中に呆気なく立ち消えた