息をひそめて、微笑んで
エストの姿を見付けたのが嬉しくて駆け寄ると、うるさいです静かにしてください、とピシャリと言われてしまった
でも嬉しかったからつい、それに一応この場所の事を考えて声は小さくしたと言ったけれど、だったら今後はもっと深くちゃんと 考えてくださいと付け加えられた
確かに図書館では静かにしなければいけないけれど、でもエストに会えたのが嬉しかったんだもの。私なりに周りを気にして声を小さくしたのに、エストにはこれでもまだ足りないってことなのかな
「うー…」
「……ルル。唸っていないで勉強を始めたらどうですか」
呆れたようにそう言ったエストが読んでいるのは、いかにも難しい魔道書
イヴァン先生とヴァニア先生の特別授業を受けているエストは前よりももっと勉強熱心になって、もっと難しい事を勉強している。正直気になるけれど、具体的に何をやっているのか私には教えてくれないし、多分教えてもらってもちゃんとは理解できないから聞いた事は無い
それにエストは前、黙って見守っていてください、と私に言った
見守る
放っておくではなくて、見守る
ちゃんと見守るのは、エストの近くにいなきゃ出来ない。だからまるでずっとそばにいる事を許してくれる言葉の様で、私はとても嬉しくなった
「…何ひとりで笑っているんですか?」
そんな事を思い出している内に、思わず笑っちゃっていたみたいでエストが凄く怪訝そうな顔でこちらを見ていた
慌てて何でもないって言いながら、自分の魔道書を開く
隣で黙々とペンを進めるエストと同じ様に課題をやっていく。同じように、って言ってもやっている内容には差があるけれど、でもこうやって同じ時間に同じ場所で同じ様な事をするっていうのは、例えお互いに無言だったとしてもなんだか楽しくて好き。そんなにくっついてはいないけど、隣にエストがいるって言うのが凄く落ち着く
「う〜ん…」
そうやって暫く問題を進めていたけれど、なかなか解けないものがひとつ出てきてしまった。どうやっても解けなくてうんうん唸っていた私に呆れたのか、エストが溜め息を吐いた
「どの問題ですか?」
「い、いいの?」
「教える為に一緒に勉強しているんでしょう?」
「でもエストのも大変そうだしっ」
「何らしくない遠慮をしているんですか。それに僕のは粗方片付きました」
そう言うエストにおずおずと問題を見せると、彼はそれを少し見てからすぐに説明をしてくれた
エストの説明は簡潔で、とても分かりやすい。多分、あまり理解するのが上手ではない私に気を使ってくれているんだと思う
その事がなんだか嬉しかったけれど、でも今度こそ周りを気にして小さな声で話す私に、エストは私よりももっと小さな声で説明を続ける。他の人から見たら、もしかしたら内緒話をしている様に見えているのかもしれない
「分かりましたか?」
「分かったわっ!ありがとう、エスト」
「ここは今度の試験の範囲ですよね。今のうちにしっかり理解しておいた方がいいでしょう」
「うんっ。でもやっぱりエストは凄いわ。私ももっと頑張らなきゃ」
「……あなたは今でも十分頑張ってますよ」
「…え?」
予想外の言葉に驚いて顔を上げると、エストはなんだか居心地が悪そうな表情をしていた
それから少し照れたような色を浮かべて、続ける
「あなたは属性を得たし、知識も増えたし律も安定している。…実際魔法を失敗する事も随分減ったでしょう?」
「う、うん…」
「それはあなたが頑張った結果です。少なくとも僕は、そう思っています。だから……」
「…だから?」
「…だから、もっと自分の力に自信を持ってください。そうでなきゃ、教えた甲斐がありません」
相変わらず小さな声でそう言って、最後に同じくらい小さな笑みを浮かべてくれた。そのまま私の頭にそっと触れるエストの頬はやっぱり少し赤くて、なんだか私まで恥ずかしくなってくる
でもそれ以上に、エストが素直に褒めてくれた、認めてくれた事が嬉しくて仕方なくて。我慢なんて出来なくて隣に座るエストに思い切り抱きついた
「ありがとうっ、エスト!大好きよ」
エストの座る椅子が大きな音を鳴らしたけれど、近くをたまたま通りかかったノエルが変な声を上げて驚いていたけれど、そんな事は気にしないでエストをぎゅうって抱きしめる
「ル、ルル!!」
慌てた様な恥ずかしがる様にエストが止めようとしたけれどそれでも構わない。だってだって、凄く嬉しくて堪らなくて、エストが好きで堪らなくて。抑える事なんて出来っこないんだもん