君が為
01:何度でも言うよ
「エスト、大好きよ」
まるで口癖のように、彼女は飽きることなくその言葉を口にする。例え周りに他人がいても
その言葉に誰かが少なからず動揺しようと、彼女は気にしない。肝が据わっているのか、図太いのか。単純に鈍感なだけか
けれど僕が同じ言葉を彼女に返せた事は数える程しかない
恥ずかしさと、意地と、後はこの性格が邪魔をする
ルルの様に好意を大っぴらにする事はまだ上手く出来ないし、大っぴらにぶつけられる事もやはり苦手だ
恥ずかしいからやめろ、そう簡単に口にするものじゃないと彼女には言いつつも、それでも毎度毎度その言葉を拒むでもなく受け取ってしまう今の僕は、どう考えてもルルに感化されつつある
それが良い事なのかどうなのかはまだ分からない。でもこの言葉を言う時のルルのあの笑顔は、どうしようもなく僕の心をほぐしていく
まるで口癖のように、彼女は飽きることなくその言葉を口にする。例え周りに他人がいても
その言葉に誰かが少なからず動揺しようと、彼女は気にしない。肝が据わっているのか、図太いのか。単純に鈍感なだけか
けれど僕が同じ言葉を彼女に返せた事は数える程しかない
恥ずかしさと、意地と、後はこの性格が邪魔をする
ルルの様に好意を大っぴらにする事はまだ上手く出来ないし、大っぴらにぶつけられる事もやはり苦手だ
恥ずかしいからやめろ、そう簡単に口にするものじゃないと彼女には言いつつも、それでも毎度毎度その言葉を拒むでもなく受け取ってしまう今の僕は、どう考えてもルルに感化されつつある
それが良い事なのかどうなのかはまだ分からない。でもこの言葉を言う時のルルのあの笑顔は、どうしようもなく僕の心をほぐしていく
02:いつだって駆けつけるから
普段は自分の事でさえ鈍感なくせに、どうしてこういう時に限って勘が鋭いんだろう
「エスト…」
不安げに僕の腕を掴む指先は、少しだけ冷えている。一体どれだけの時間、僕を探していたんだろう
呼吸が落ち着いてきてふと見ると、彼女のスカートに軽く土が付いている事に気付いた。転んだのか、どこかに引っかけたのか。何にしてもルルが焦っていた事は明白で
「大丈夫ですよ」
少しでも安心させたくてそう言ったけれど、あまり効果はなかった。無理も無い。どうにか出した僕の声は掠れていたのだから
体を縛り付ける、この鎖。苦しくない、痛みは感じない、なんて嘘はもうルルには通じない
ルルは少し迷うように視線を泳がせてから、けれどそれをすぐ笑みに変えて言う
「良かった。でももう少しここで休んでから戻りたいわ。走ったら少し疲れちゃったの」
僕の手を握り直して、隣に座る。そして呪文を唱えて、小さな光の粒を作る
真っ暗じゃエストの顔が見えないもの、と言う彼女は、最近は滅多な事が無ければ魔法を失敗しない
ふわふわと闇を舞う小さな光。柔らかくて、小さくて、ルルみたいだ
自然とそう思ってしまった頃にはもう僕の体は落ち着きを取り戻していた。倦怠感はまだあるけれど、苦しさはだいぶ薄くなった
僕の隣で他愛も無い事を話していつも通りに振る舞うルルの、僕より少し小さい手を握り返すと彼女はとても嬉しそうな笑みを僕に向けてくれた
「エスト…」
不安げに僕の腕を掴む指先は、少しだけ冷えている。一体どれだけの時間、僕を探していたんだろう
呼吸が落ち着いてきてふと見ると、彼女のスカートに軽く土が付いている事に気付いた。転んだのか、どこかに引っかけたのか。何にしてもルルが焦っていた事は明白で
「大丈夫ですよ」
少しでも安心させたくてそう言ったけれど、あまり効果はなかった。無理も無い。どうにか出した僕の声は掠れていたのだから
体を縛り付ける、この鎖。苦しくない、痛みは感じない、なんて嘘はもうルルには通じない
ルルは少し迷うように視線を泳がせてから、けれどそれをすぐ笑みに変えて言う
「良かった。でももう少しここで休んでから戻りたいわ。走ったら少し疲れちゃったの」
僕の手を握り直して、隣に座る。そして呪文を唱えて、小さな光の粒を作る
真っ暗じゃエストの顔が見えないもの、と言う彼女は、最近は滅多な事が無ければ魔法を失敗しない
ふわふわと闇を舞う小さな光。柔らかくて、小さくて、ルルみたいだ
自然とそう思ってしまった頃にはもう僕の体は落ち着きを取り戻していた。倦怠感はまだあるけれど、苦しさはだいぶ薄くなった
僕の隣で他愛も無い事を話していつも通りに振る舞うルルの、僕より少し小さい手を握り返すと彼女はとても嬉しそうな笑みを僕に向けてくれた
03:ひだまりのような優しさで
「エストったら、またサラダしか食べないの?」
もっと食べないといけないわ、といつもの様に言うルルの皿にはとても甘そうなシロップがかかったフレンチトーストが乗っている。よく朝からこんな物を食べられるな、と思ったけれどそれは今更だった。あのラギやビラールと一緒に食事をしても何ら問題が起きないルルの胃がこの程度のもので駄目になるはずもない
「僕はこれで充分です」
「駄目よ!朝はちゃんと食べないと!それに大きくなれないんだからっ」
子供に向ける様な言葉に若干むっとする。ルルは相変わらず、僕を年下扱いする。実際年下だから当然と言われればそうだけれど、でもやっぱり癪だ。このルルの態度はいつかどうにかしなければ、と思いつつも具体的な対応策はなかなか出てこないと言う事が最近の僕の悩みと言っても良いかもしれない。勿論、誰かに相談なんてした事はないけれど
「これだけでも食べてっ」
そう言いながら、ルルはナイフの背でシロップを退かしてからフレンチトーストを切り、僕の皿の隅にそっと置いた。そしてじっと僕を見つめる。多分、僕が食べるまでこの視線を動かす気は無いんだろう
こうなったらルルは口で言っても聞かないから、早々に諦めてその黄色い塊を口に頬り込む
「ね、美味しいでしょ?」
満足したように笑うルルにゆっくりと頷きながら咀嚼する
それは思っていたよりも甘味が薄く、柔らかい触感に合うふんわりとした味をしていた。表面に微かに残る甘さはきっとルルが退けたシロップの名残
ルルは僕が甘いものが苦手なのを知っている。だからシロップを取り除いてから、僕に差し出した。僕が食べやすいように
シロップがたっぷりかかったフレンチトーストを美味しそうに頬張るルルの薄い色の髪に窓から差し込んだ朝日が当たって、ふわりと揺れた
もっと食べないといけないわ、といつもの様に言うルルの皿にはとても甘そうなシロップがかかったフレンチトーストが乗っている。よく朝からこんな物を食べられるな、と思ったけれどそれは今更だった。あのラギやビラールと一緒に食事をしても何ら問題が起きないルルの胃がこの程度のもので駄目になるはずもない
「僕はこれで充分です」
「駄目よ!朝はちゃんと食べないと!それに大きくなれないんだからっ」
子供に向ける様な言葉に若干むっとする。ルルは相変わらず、僕を年下扱いする。実際年下だから当然と言われればそうだけれど、でもやっぱり癪だ。このルルの態度はいつかどうにかしなければ、と思いつつも具体的な対応策はなかなか出てこないと言う事が最近の僕の悩みと言っても良いかもしれない。勿論、誰かに相談なんてした事はないけれど
「これだけでも食べてっ」
そう言いながら、ルルはナイフの背でシロップを退かしてからフレンチトーストを切り、僕の皿の隅にそっと置いた。そしてじっと僕を見つめる。多分、僕が食べるまでこの視線を動かす気は無いんだろう
こうなったらルルは口で言っても聞かないから、早々に諦めてその黄色い塊を口に頬り込む
「ね、美味しいでしょ?」
満足したように笑うルルにゆっくりと頷きながら咀嚼する
それは思っていたよりも甘味が薄く、柔らかい触感に合うふんわりとした味をしていた。表面に微かに残る甘さはきっとルルが退けたシロップの名残
ルルは僕が甘いものが苦手なのを知っている。だからシロップを取り除いてから、僕に差し出した。僕が食べやすいように
シロップがたっぷりかかったフレンチトーストを美味しそうに頬張るルルの薄い色の髪に窓から差し込んだ朝日が当たって、ふわりと揺れた
04:君の手を引いてどこまでも
ルルはスキンシップ過多だ
これは前から思っていた事だし、誰に対してもそうだ
人に近付き過ぎるし、よく触れる。それは相手が誰であろうと、拒絶しか示さなかったあの頃の僕であろうと、変わらない
僕の手を引いて半歩前を歩くルルは、目に見えて上機嫌だ
手を繋いで帰りたいと言う彼女を最初は拒否していたけれど、どうしてもと言う言葉に結局負けてしまった
薄暗くなり始めた今の時間、この道には人が少ない。そして寮に着くまでの短い距離だけなら。それが僕の譲歩だった
ルルは周りにいる人達に対してよくスキンシップを取っている。ユリウスやノエル、明らかに有害なアルバロにさえ
でも誰かに触れて、触れられて、これだけ嬉しそうな顔をするルルを僕は知らない
僕以外には、こんな顔は見せない
その事実が、僕の心をほぐしていく
この感情が何なのか、もう分かっている気がするけれどその事にはまだ気付いていない振りをしていたい。彼女が他人に見せない表情を僕にだけ見せてくれている事が、これほど幸福に感じるなんて
これは前から思っていた事だし、誰に対してもそうだ
人に近付き過ぎるし、よく触れる。それは相手が誰であろうと、拒絶しか示さなかったあの頃の僕であろうと、変わらない
僕の手を引いて半歩前を歩くルルは、目に見えて上機嫌だ
手を繋いで帰りたいと言う彼女を最初は拒否していたけれど、どうしてもと言う言葉に結局負けてしまった
薄暗くなり始めた今の時間、この道には人が少ない。そして寮に着くまでの短い距離だけなら。それが僕の譲歩だった
ルルは周りにいる人達に対してよくスキンシップを取っている。ユリウスやノエル、明らかに有害なアルバロにさえ
でも誰かに触れて、触れられて、これだけ嬉しそうな顔をするルルを僕は知らない
僕以外には、こんな顔は見せない
その事実が、僕の心をほぐしていく
この感情が何なのか、もう分かっている気がするけれどその事にはまだ気付いていない振りをしていたい。彼女が他人に見せない表情を僕にだけ見せてくれている事が、これほど幸福に感じるなんて
05:扉が開くまでずっと
古代種二人に教えを請い、自分の将来をちゃんと存在するものとして考え、ルルと生きていくための具体的な道を探り始めたけれど、僕の問題はまだ何ひとつ解決してはいない
狂信派の老人達はまだ僕をただの完成品と思っているし、僕の体を縛る鎖の事も、なにひとつ
「お疲れ様っ、エスト!」
古代種二人の特別授業を終え湖に行くと、木の下に座っていたルルは嬉しそうに顔を輝かせた
ルルの好意も、感情も、全部目に見えて分かってしまって少し気恥ずかしい。気恥ずかしい、けれどそのルルの気持ちが嬉しく思える事も事実で
「何を読んでいたんですか」
隣に座りながらそう聞いた僕の声は、妙に柔らかみをはらんでいた
アミィに借りたと言う物語のあらすじを説明するルルを見ながら思う
きっとルルは、この先何が起ころうと僕の傍にいようとしてくれる。だからこそ僕も、そんなルルと、ルルと共にいられる未来を守りたい
ゴールがどこにあるのかも分からない。具体的に何をしたら良いのかさえ、未だおぼろげだ
でも今できる事をしっかりとして、ルルを、そして僕自身を守れるようにならなければならない。そうしなければ、ルルの傍にいられる未来は得られない
「ルル。もし良ければ今度の週末…前行きたいと言っていたカフェに行きませんか?」
「ほんとっ!?嬉しいわエスト!」
この笑顔をずっと、守るために
狂信派の老人達はまだ僕をただの完成品と思っているし、僕の体を縛る鎖の事も、なにひとつ
「お疲れ様っ、エスト!」
古代種二人の特別授業を終え湖に行くと、木の下に座っていたルルは嬉しそうに顔を輝かせた
ルルの好意も、感情も、全部目に見えて分かってしまって少し気恥ずかしい。気恥ずかしい、けれどそのルルの気持ちが嬉しく思える事も事実で
「何を読んでいたんですか」
隣に座りながらそう聞いた僕の声は、妙に柔らかみをはらんでいた
アミィに借りたと言う物語のあらすじを説明するルルを見ながら思う
きっとルルは、この先何が起ころうと僕の傍にいようとしてくれる。だからこそ僕も、そんなルルと、ルルと共にいられる未来を守りたい
ゴールがどこにあるのかも分からない。具体的に何をしたら良いのかさえ、未だおぼろげだ
でも今できる事をしっかりとして、ルルを、そして僕自身を守れるようにならなければならない。そうしなければ、ルルの傍にいられる未来は得られない
「ルル。もし良ければ今度の週末…前行きたいと言っていたカフェに行きませんか?」
「ほんとっ!?嬉しいわエスト!」
この笑顔をずっと、守るために
title by starry-tales