好きで好きで好きで好きで大好きなんです
「だ〜れだっ」
いつも通りの明るい声と共に視界を奪われた
全ての講義を終え調べ物の為に図書室へと向かおうとしている途中、ビラールと会った
彼はいつも通りの朗らかさで挨拶をし、軽い世間話を投げかけた。これはいつもの事だし、遊べる対象を見つけていない彼はまだ常識的だ。それに応えていると、ビラールは幾分か真面目な声色で精霊についてを聞いてきた。恐らく、ファランバルドの水不足を解消するために必要な事なんだろう。けれど僕自身はあまり精霊には詳しくはない。彼の質問に答えるため考えを巡らせた
だからだろうか、背後からそっと近づいてくる気配にも、その事に感付き何かを察したように小さく微笑むビラールにも気付かなかった
「だ〜れだっ」
僕より一回りほど小さな手で視界を奪われた。僕にこんな事が出来るのはひとりしかいない。そもそも、いつも通りの声の時点でまるで隠せていない
すぐ背後で楽しそうにしている気配が溢れ出ている彼女と、それを見て穏やかに微笑んでいるであろうビラールがありありと想像できて溜め息が零れる
「…ルル」
「凄いわエスト!良く分かったね!」
「このくらい分かります」
「じゃあ今度はもっと分からない様にしてやるわね」
「今度なんて無くて結構です」
ルルの手をそっと剥がすと、予想通りそこには楽しそうに微笑んでいるビラールがいた。しかもご丁寧な事に「ルルとエストは仲が良いデスね」などと言っている。この人の落ち着きは相手に安心感を与える事が多い様だけれど、今に限っては鬱陶しいだけだ
「でもでも、びっくりしたでしょっ?」
「ちょ…ルル!」
そんなビラールの様子なんてまるで気にしていないらしいルルがそのまま覆いかぶさってくる。多少は僕の方が高いとは言えルルとの身長差はあまり無い。後ろから首に手をまわして、体を密着させる。そのまま喋るせいで耳に直接声が響いてうるさいし、首筋にふわふわしたルルの髪の毛が当たってくすぐったい
「本当にルルとエストはなかよしデス」
目の前にいて一切動揺しないこの人の神経の図太さが今は忌々しい。普通だったら遠慮するか居たたまれなくなるかするはずなのに
ああ、けれど至極まっとうな反応をしそうなのはラギやノエルだけかもしれない。ユリウスはいつも通り斜め上の思考から導き出された言葉を投げかけそうだし、アルバロに至っては今がチャンスとばかりにからかい倒すだろう。つくづく僕の周りには普通の人間がいない
僕も人の事を言えた立場ではないけれど
「そう言えバ、イヴァン先生に呼ばれていマシタ。ルル、エスト。またあとデ」
「そうなの?またね、ビラール!」
きっと口から出まかせだろうが、ルルは疑う事なく手を振る。それに応えながら立ち去るビラールを見てもう何度目かも分からない溜め息が出た。多分、僕はこの先もあの人の図太さには勝てないんだろう。王族だからなのかそれともビラール個人の性格なのかは知らないが、あの大胆さは尋常ではない。けれど今解決すべき問題はそんな事ではない
「…ルル」
「なぁに?エスト」
「取り合えず離れてください。ここがどこだか分かっていますか?」
「分かってるわ!」
ムキになって応えているけれど、きっと本当の意味では分かっていない。ここは図書館へと向かう道だ。放課後とは言え生徒がいない訳じゃない。現にビラールと会ったのだって偶然だった。いつ誰が通りかかってもおかしくない所でルルは僕に抱きついている。正直言って、落ち着かない
「ルル、もう一度言います。離れてください」
「えー…」
「すぐどかないなら強引にでもどかしますが」
「もうっ!エストのいじわるっ」
魔道書を撫でながら言うとルルは渋々僕から離れた。その頬は不満からか軽く膨らんでいる。夕日が当たってるせいかいつもよりも赤いルルの頬を見て、少し安心した。きっと僕自身も顔が赤くなっていただろうから。夕日のせいだと誤魔化す事が出来る
「でもびっくりしたわ。すぐに当てちゃうんだもの」
「…当てられない方が僕は驚きますが」
そうかなぁと首を捻るルルの隣をいつもより少しゆっくりと歩く。ルルの靴の音は軽く、石畳に良く響く
「それで?いつもは大声で呼びかけるか正面から突撃するか或いは両方のくせに、今日はどうしたんです?」
「エストをびっくりさせたくて!ね、びっくりした?」
「はぁ……しましたよ。これで満足ですか?」
「もうっ!全然びっくりしてないでしょ!?」
「ああもう!耳元で騒がないでください!」
腕を引っ張りながら言うルルに注意しても意味は無くて。むしろ逆にルルの無駄な向上心に火を点けてしまったらしく今度こそもっとびっくりさせてあげるからね、と嬉しくも無い二度目の宣言をされてしまった
「ねぇエスト」
ようやく落ち着いたルルが袖をひっぱりながら言う。眉尻を下げて上目づかいでこちらを見ているから、思わず足が止まった
「…なんですか」
「…手、繋いで?」
「なっ…」
頬を染めて、僕をじっと見て、そんな事を言う。いつもは周りも気にせず自分から抱きついたりするくせに。ついさっきもあんな事をしたくせに。急にこんな事を言うのは卑怯だ。しかもそんな顔で言うのは、もっと卑怯だ。これが何の計算も無しの行動だなんて、卑怯以外の何物でもない
「………図書館に着くまでですからね」
「ほんとっ!?エスト大好きっ!」
「ルルッ!」
笑顔で飛びかかろうとするルルをどうにかかわしながら思い知る。僕はあの大胆さを持った異国の皇子よりも底知れぬ古代種二人よりも、目の前のこの女の子に本当の意味で勝つことの方がよほど難しいと
title by ユグドラシル
『後ろから「だ〜れだ?」をしている』『エスルル』を描きor書きましょう。 http://shindanmaker.com/62729