きっと、ずっと





震える瞳で、掠れた声で、彼女は俺の前に現れた





本屋に行って、列に並んで、少しずつ自分の番が回ってくるこの状況でも、私はまだ躊躇っていた
会わない方が良いのかもしれない。だって先生自身があの時ああ言っていたんだもん
けれど本当は会いたい。会いたくて会いたくて、たまらない
こんな、仕事の場所に来るなんて迷惑になるかもしれない。やっぱりやめた方が
そうやってグルグル考えている内に前に並んでいた人の背中が消え、その陰から先生の姿が見えた
その瞬間、なんだか息が止まりそうになって、どうにか絞り出した声は自分でも驚くくらい弱々しく揺れていた
先生は私の姿を確認すると、一瞬驚いた様な表情になったけれどすぐにそれまで通りの顔に戻して、サインを書いてくれた
きっと他の人から見たら、私は藍沢秋吾と言う作家に会えて嬉しさのあまりまともに話せないファンに見えたと思う



本を受け取ると、私は先生の顔をまともに見る事も出来ないまま足早に店を出た
先生、なんだか少し痩せた気がする
忙しいから当然かもしれないけれど、顔色も悪い様に見えた
どうしよう。心配だ
心配だけど、何も出来ない



会いたくて会いたくて堪らなかった。会う事を少し怖いとも思ったけれど、それでも会いたかった
会って顔を見るだけで良いって言うのは本心だけれど、もしかしたら前みたいな関係に戻れるかもしれないと淡く期待していたのも本当だった
バーに連れて行ってもらった時、先生は本当に楽しそうに氷室先生の噂や自分の高校時代の話をしてくれた
あの時みたいに話すのはもう本当に無理なのかもしれない
それどころかもう二度と、会えないかもしれない
だって先生と私の接点なんて、もう本当に無くなってしまったから








彼女はどんな思いでここに来たのだろう
俺に対して何かを言ったり、しようとしていた様子は見られなかった
ただ他の客と同じようにサインをもらいに来ただけだ
あの姿を見た瞬間、本当に驚いた。まさか来るとは思ってもいなかった
彼女は最後に見た時と殆ど変らず・・いや、少し大人びた雰囲気になっていた様な気がする



俺は彼女を傷付けた。一方的な事を言い、突き放した
許しを請うつもりは無かった。言い訳をするつもりも
ただ時折、会いたいと酷く単純にそう思う事が有った。叶う訳が無いと分かっていたのに
だからもう殆ど諦めていた。それに仮に会えたとしても、彼女がまた前の様に接してくれるとは思えなかった。どうにもならない
だが数ヵ月ぶりに彼女の姿を間近で見て、懐かしさや罪悪感が一気に押し寄せてきた
会いたいと、切実に思った。何かに縋りたい気分だった
下手に年を取るものじゃない。こう言う時に色々と余計な事を考えて身軽に、思うままに動くことすらままならない